パーゴワークスの「EXP」シリーズは、同社のラインナップの中でも特に過酷な使用環境を想定したフラッグシップと位置づけられています。その中核をなす「ZENN 35 EXP」を、実際の登山、バックカントリースキー(BC)で使用しました。
カナダALUULA社の新素材の採用や、パーゴワークス独自の「ZENN SYSTEM」など、スペック上の見どころは多いモデルですが、実際に現場に持ち出すと、その恩恵だけでなく、運用面での工夫が必要な箇所もいくつか見えてきました。使い手の視点から、その実用性を詳しく見ていきます。
スペック
- サイズ:560×250×270mm(ロールトップ最大:750mm)
- 重量:本体:830g、デタッチャブルポケット:70g、ヒップハーネス:160g
- 容量:本体:30L、デタッチャブルポケット:5L
- 背面長:44〜54cm(目安身長:155cm〜180cm)
- 主素材:ALUULA Graflyte®
- 付属品:デタッチャブルポケット、デタッチャブルハーネス、ヒップハーネス
素材の特性:ALUULA Graflyte®の質感と信頼性

ZENN 35 EXPのメイン素材である「ALUULA Graflyte®」は、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)を核とした素材ですが、接着剤を使用していないため、長年の使用や屈曲による剥離(デラミネーション)が起きにくい素材です。近年のULザックで採用されることの多いUltraやDCF(ダイニーマ)との違いは以下の通りです。
素材構造の特徴

- Ultra UHMWPEを使用しつつ、接着を容易にするため約33%のポリエステルを混紡
- DCF UHMWPE繊維をポリエステルフィルムでサンドイッチした構造
- ALUULA 表面素材からフィルムまで100% UHMWPEで構成
実際にフィールドで扱ってみると、その表面は非常に硬質で、岩場での擦れやスキーのエッジが干渉しても、生地が毛羽立ったり傷ついたりする気配がありません。また、水を通さない不透過性素材であるため、雪の上に直接ザックを置いたり、湿った地面に置いたりしても、内部への浸水を気にする必要がないのは大きな利点です。
フィッティングシステム「ZENN SYSTEM」の構造
このザックの最大の特徴は、背負い心地を左右する「ZENN SYSTEM」にあります。これは一般的なバックパックの構造を再定義したもので、いくつかの独自の設計がなされています。
低重心・高重心のコントロール

ショルダーハーネスの支点が通常のザックよりも低く設定されており、ハーネス自体の有効長が長く取られています。これにより、トップスタビライザーで荷重を身体側に寄せた際も、ハーネスが身体のラインに沿いやすく、フィット感が崩れにくいのが特徴です。

また、全体的に細身のシルエットでありながら、肩甲骨周辺にボリュームを持たせた設計になっているため、パッキングを完了させると自然と荷重が背中の高い位置に集まります。これにより、歩行時の左右の揺れが少なくなり、足場の不安定な場所でも安定した歩行が可能になります。
荷重分散の仕組み

ショルダーハーネスは幅広のデザインが採用されています。重い装備を背負った際も、肩の一点に重みが集中せず、肋骨全体で荷重を支えるような感覚があります。これは同社のトレイルランニング用パック「RUSH」の設計思想を受け継いでおり、フレームレスでありながら、歩行時の揺れや疲労を軽減する仕組みが機能しています。

背面長はベルクロによって44cmから54cmまで調整が可能です。冬場の厚手のウェアから、夏場の薄着まで、レイヤリングに合わせて微調整ができる点は実用的です。
実用性を高めるカスタマイズ機能
ZENN 35 EXPの大きな特徴は、状況に応じてパーツを着脱・交換できるモジュール設計にあります。
ウエストベルトと背面パッドの着脱
ヒップハーネス(ウエストベルト)は、必要に応じて簡単に取り外すことができます。足上げの自由度を優先したい岩場や、軽量化を重視する山行では外して運用できるため、非常に柔軟です。
また、背面にはフォームパッドが内蔵されていますが、これも取り外しが可能です。休憩時の座布団代わりにしたり、より軽量なパッドに差し替えたりといった使い方ができます。
メンテナンス性の良さ
ショルダーハーネスそのものも簡単に取り外せる構造になっています。汗を吸い込みやすいパーツだけを外して手軽に洗濯できるのは、道具を長く清潔に使う上で非常に大きなメリットです。
収納とアクセス:現場での使い勝手
機能的である一方で、実際の山行中には注意が必要な点もあります。
サイドジッパーの活用

トップからボトムまで大きく開くダブルジッパーは、一見すると利便性が高く見えます。しかし、実際にパッキングを終えて行動を開始した後、ボトム付近の荷物を取り出すと、内部の荷物が崩れてしまい、再パッキングが必要になる場面がありました。

このジッパーの活用は、「テント場に到着してすぐに底のテントを取り出す」といったシーンでは有効ですが、登山道での頻繁な出し入れにはあまり向いていないと感じます。私の場合は、途中で使う可能性のあるものは上部に入れ、このジッパーは特定の目的以外では使用しないようにしました。しかしバックカントリーで保温ボトルを取り出すのには便利だと思いました。
トップポケットの利便性


バックパック上部には小物を収納できるジッパーポケットが備わっています。ヘッドライトや行動食を入れるのに便利ですが、荷物量が少なく、ロールトップを深く巻き込みすぎると、このジッパーが巻き込み部分に隠れてしまい、開閉しづらくなることがありました。荷物の量に合わせて、巻き方の加減を調整する手間が発生します。
改善としてはシンプルな考え方ですが、装備が少ない時はトップポケットの中に頻繁に使いたいものを入れないようにすれば良いと思ってます。
ショルダーポケットのサイズ感


ハーネスのポケットはストレッチ性があり、スマホや様々な行動食を入れるには十分な容量があります。昭文社の「山と高原地図」を入れようとすると、幅がわずかに足りず、角を少し曲げて収納しなければなりませんでした。
サイドポケットの利便性


500mlのボトルが2本入る大容量のサイドポケットはストレッチ素材でしなやかな素材なので、ボトルの出し入れが容易です。背負った状態でもボトルの出し入れしやすい切れ込みがあり、ボトルを入れた状態でトップのストレッチコードで固定できるため、岩場などの不安定な足場でボトル脱落を防ぐ安心感があります。
拡張性とメンテナンス性の実用度
ZENN 35 EXPは、各パーツがモジュール設計になっており、用途に合わせてカスタマイズできる点に特徴があります。
メンテナンスの容易さ
ショルダーハーネスが簡単に取り外せる構造は、実際に使ってみると非常に便利です。汗を吸い込み、汚れが目立ちやすいハーネス部分だけを外して個別に洗濯できるため、長期にわたって清潔な状態を維持できます。
オプションによる拡張


5Lのデタッチャブルポケットを本体前面に取り付けることで、容量を拡張できます。このポケットは単体でアタックザックとしても機能するため、ベースキャンプを設営した後散歩に出かけるのに重宝しました。本体のストラップで容易に着脱できる設計は、ストレスなく扱うことができます。
5. 雪山・バックカントリーでの使用感
バックカントリースキー(BC)でも使用しましたが、ここでは冬用ハーネスに取り替えることで利便性が高まります。
冬用ハーネスの特性
雪山仕様のショルダーハーネスは、メッシュ素材を排しており、雪が付着しにくい作りになっています。また、トランシーバーやスマートフォンを固定しやすいよう、ポケットやストラップの配置が最適化されています。グローブをした状態でも操作がしやすく、冬場での使用をよく研究していると感じます。
春スキー向けの容量

35Lという容量は、厳冬期のフル装備をすべて内部に収めるにはややタイトです。装備をある程度絞れる春スキーや、日帰りのBCツアーであれば、細身のシルエットが活きて滑走時の邪魔になりません。サイドのジッパーも、保温ボトルを取り出す際など、特定の荷物にアクセスする分には役立ちました。
スキーのAフレーム携行


サイドのストラップを利用して、スキーをAフレーム(左右に振り分けて固定する方式)で携行することが可能です。細身のシルエットでスキーを固定した際も重心が安定するため、雪の少ないエリアでのアプローチや、スキーを背負っての登攀も問題なくこなせました。
6. まとめ
ZENN 35 EXPを使い込んで感じたのは、「パッキングの精度を求める、玄人に喜ばれる道具」だなあと思いました。もちろん登山初心者の方にも使いやすい、そして汎用性の高さによるコストパフォーマンスにも優れたザックだと感じます。
個人的には、ザックを背負う前は「金属フレームがあればより安定するのではないか」と感じていました。しかし、実際にパッキングしてみると、その細身のシルエットと高重心設計のおかげで、フレームレスでありながら左右のブレが非常に少なく、高い安定感を得ることができました。

