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1泊以上の登山をスマートにする「引き算」と「リスクヘッジ」の計画術

1泊以上の登山をスマートにする「引き算」と「リスクヘッジ」の計画術

テント泊の縦走登山において、本当の安心と快適さは、ザックの重さを削ることから始まります。しかし、ただ闇雲に装備を減らすのは単なる無謀になりかねません。

重要なのは、現地のリアルな情報を事前に繋ぎ合わせ、計画の段階で「持たないリスク」を安全に管理することです。

今回は、私が実践している南アルプスの全山縦走の計画書を一つの具体例として共有しながら、北アルプスや八ヶ岳など、あらゆる山域で応用できる「軽量化と安全を両立させる計画の立て方」について、その本質的な視点を紐解きます。

1. 計画で荷物を削る:食料と水を最適化する「情報連携」の視点

計画書を作る最大の目的の一つは、装備の「引き算」です。事前の調べ方次第で、ザックの重量はキロ単位で変わります。

食料計画:山小屋の売店情報を「パズル」のように組み込む

全ての食料を背負って歩くのは体力を消耗するだけです。私が計画を立てる際は、通過する山小屋の売店メニューや営業時間を細かくチェックします。

  • 「2日目の昼はここの小屋で温かい麺類を食べよう」

  • 「3日目の夜はレトルトの販売があるから、アルファ米だけ持参して、おかずは現地で調達しよう」

このように、自分の行程と山小屋の売店情報をパズルのように噛み合わせることで、確実に食料の重量を引き算していきます。

水分計画:水場の豊富さに応じて「背負う量」を変える

水は1ℓ=1kgの重量物です。「不安だから常に3ℓ背負う」のは体力を削る原因になりますが、水をギリギリまで削るなら「徹底的な事前確認」が不可欠です。

① 水場が生きているか「事前の確認手順」

地図のマークを真に受けてはいけません。その年の雪の量や雨の少なさで、細い沢は簡単に枯れます。

  • 山小屋へ直接確認: 縦走前に「今年の水場の出具合」を電話やSNSで聞くのが最も確実です。「雪不足で枯れ気味」「数週間雨がない」といった現場の生きた情報が手に入ります。

  • 直近の登山レポートを精査: 数日前に入山した人の活動日記などを検索し、「水量がチョロチョロ」「煮沸が必要だった」などの書き込みがないかチェックします。

② 沢水(川)を計算に入れるなら「浄水器」が必須

深い沢筋や、上流の沢から引いている水場は補給のチャンスですが、野生動物による汚染リスクがあるため生水での飲用は危険です。沢水から補給する可能性がある場合は浄水器を必ず装備に加えましょう。

2. 計画で命を守る:夏山のリスクを先回りする「14時の壁」

計画を立てることは、そのまま最高のリスクヘッジ(安全管理)になります。特に8月の夏山において、最も警戒すべきは午後からの夕立や落雷です。

山の気象データを見ると、上昇気流が強まる12時ごろからカミナリ雲が発達し始め、14時〜16時にかけて激しい雨や落雷のピークを迎えます。

遮るもののない稜線上での落雷や、大雨のなかでのテント設営は、体力を奪うだけでなく命に関わります。そのため、私の計画では「いかに14時前後にその日の目的地(テント場)へ到着するか」を1つの基準にしています。

逆算して、行動時間が長い核心部の日ほど「深夜2時・3時出発」を設定する。この時間管理の思想こそが、天候急変に巻き込まれないための防御策です。

3. 【実例開示】私が実践している南アルプス縦走の計画・情報連携スプレッドシート

私が実際に使用している計画の組み方です。地名やタイムは南アルプスのものですが、注目していただきたいのは「各日の到着時間と、その場所の予約状況・売店環境がどう連動しているか」という構造です。みなさんがご自身のホームマウンテンや北アルプスなどの計画を立てる際の「組み立て方のサンプル」としてご覧ください。

この表を3つのポイントで紹介します
① 【安全】夏のカミナリを回避する「14時前後の到着設定」

  • 8月の夏山は、14時〜16時に夕立や落雷のピークを迎えます。

  • 行動時間が12時間を超えるロングデー(4日目・6日目)は、「深夜2時・3時出発」にすることで、午前中のうちに主要な山頂や稜線を通過し終えるというリスクヘッジが組まれています。

② 【軽量化】山小屋を賢く使う「荷物の引き算」

  • 売店での昼食・夕食補給: 光岳小屋のカップ麺、茶臼小屋のカレー、百間洞や熊ノ平のレトルト食品などを食料計画に組み込んでいます。「お昼は小屋で食べる」「おかずは現地で買う」と決めることで、背負う食料の重量を削っています。

  • 最終日の「デポ」作戦: 7日目は長衛小屋(5:20)に重い荷物を一度デポ(預ける)し、空身に近い軽量スタイルで甲斐駒ヶ岳を往復しています。

③ 【水と財布】区間ごとの「メリハリ管理」

  • 水場の事前対策: 5日目の塩見小屋周辺は「水場が有料(2ℓ500円)・要沸騰」と分かっているため、前後の水が豊富なエリア(三伏峠や熊ノ平)を活かして、水の持ち方にメリハリをつけています。

  • 予算の透明化: 各日の幕営料、食事代、飲料代をあらかじめ「費用(目安)」として積み上げることで、現金トラブルを未然に防ぐ計画にしています。

4. 計画を現実のものにする「お財布(現金)のリスク管理」

どれだけ軽量化やルートのシミュレーションを重ねても、現地で「お金が足りない」となっては計画が破綻します。山の上は基本的にクレジットカードや電子マネーが使えない「現金社会」です。

スプレッドシートの「費用」の列を合計していくことで、その山行全体のミニマムな予算が見えてきます。

  • 確実にかかる固定費: テントの幕営料(1泊1,000円〜2,000円程度)

  • 軽量化のための流動費: 現地で買い受けるお昼ご飯代やレトルト代(1食約1,500円)、飲料代

  • 安全のための予備費: 悪天候や体調不良でテントが張れず、急遽「小屋泊(素泊まり10,000円〜)」に切り替えるための現金

これらを事前に見積もり、少し余裕を持たせた現金を財布に入れておくこと。これも、長期縦走における大切なリスクヘッジの一つです。

まとめ:計画をデザインすることは、登山をデザインすること

今回ご紹介したのは、あくまで私の南アルプスにおける一例です。これをそのまま真似する必要はありません。

大切なのは、みなさんが北アルプスや八ヶ岳、あるいは地元の山に赴く際、「どこの小屋で荷物を減らせるか」「何時に着けばカミナリから逃げられるか」という視点を持って計画を作ることです。

事前に徹底して山を調べ、計画をスマートにデザインする。そのプロセス自体が、長期縦走の大きな楽しみであり、安全への確かな一歩となります。

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